ATR-X症候群とは

ATR-X症候群とは、X-linked α-thalassemia/ Mental Retardation Syndromeの頭文字をとった疾患名で、日本語では、X連鎖αサラセミア・精神遅滞症候群と呼ばれる疾患です。

  • 発達の遅れ
  • 特徴的な顔立ち
  • ヘモグロビンの異常(貧血の一型;αサラセミアとはαグロビンとβグロビンのうち、βグロビンに比べてαグロビンが量的に不足していて貧血になる病態です。)

を主要な臨床的特徴とする症候群です。

英国オックスフォードのWeatherallを中心とする研究室では血液疾患であるαサラセミア(α-thalassemia)の研究を長年行っていました。もともと、αサラセミア(α-thalassemia)は東南アジアに多い疾患でヨーロッパでは希な疾患です。そのヨーロッパで、αサラセミア(α-thalassemia)と発達の遅れ(mental retardation)を合併している症例(ATR)が30年ほど前から知られていました。この一見関連のなさそうな2つの臨床的特徴の組み合わせを持つ患者さんを研究していくうちに、2つのグループに分かれることが分かりました。
一つは、αグロビン遺伝子(設計図)が載っている16番目の染色体の一部が欠損していて、その欠落している部分に発達に関わる遺伝子が含まれていて、男女とも発症するタイプ(ATR-16)。そして、もう一つは、患者さんは皆男性で、16番染色体には異常がなく、特徴的な顔立ちをしていて、発達の遅れの程度が皆一律に重いタイプです。X染色体に発症の原因となる遺伝子があることが予想されたため、ATR-Xと名付けられました。
1995年に英国オックスフォード大学のRichard J Gibbons博士が、ATR-X症候群の責任遺伝子としてXNP(ATRX)遺伝子を同定しました。
現在までに、世界で200症例近く(うち日本人の症例は約40症例)がATR-X症候群と診断されています。