遺伝子変異解析へのご協力について

遺伝・遺伝子とは?

 「この子の顔はお父さん似だ。」「この子の性格はお母さんに似ている。」と日常経験されているように、「親の体質が子に伝わること」を「遺伝」と呼びます。この「体質」には,顔かたち,体つきのほか,病気の罹りやすさなども含まれます.でも、この「体質」は,遺伝だけで決まるわけではありません。生まれ育った環境によっても変化します。人の体の状態というのは「遺伝」と「環境」で決まります。

 では、どのようにして、親の体質が「遺伝」するのでしょうか?

 私たち人間は、約60兆個の細胞から成り立っていますが、もとは、お父さんの精子とお母さんの卵が結合してできた1個の受精卵から始まりました。これが、2つ、4つ、と分裂を繰り返して人間の体を形作っていくのです。つまり、お父さん、お母さんの体質の情報が受精卵に積み込まれ、それが、分裂する時にも正確に複製(コピー)されて、60兆個すべての細胞にその情報が正確に伝えられていくのです。この情報を伝えているものが「遺伝子」と呼ばれるもので、3万個近くあるといわれています。もっと正確に言うと、お父さん、お母さんから同じ遺伝子を1個ずつもらうので、2個ずつ3万組の遺伝子が一つ一つの細胞に積み込まれていることになります。

 遺伝子は精密な「体の設計図」というわけです。

ATRX遺伝子変異の解析の研究への御協力について

 ある遺伝子の異常が病気の原因となる場合には,その病気の患者さんの遺伝子を調べることにより診断に役立てることができます。診断をはっきりさせることにより、気をつけなければならないこと、治療法などが明確になる可能性があります。さらに,患者さん本人だけではなく血縁者の方も,病気の予防や,早期発見,早期治療を試みることが可能となります. また、この病気が次の世代に遺伝する可能性はあるのか、という遺伝カウンセリングにも役立つ可能性があります。

  これから遺伝子診断研究に関連したことがらを,その有利な点・不利な点を含めてできるだけわかりやすく説明します.もしわからない点があればいつでも質問してください。

  私たちの説明を十分理解した上で,研究に協力して血液等の提供をしても良いと考えられた場合には,「遺伝子診断研究について協力の意思の確認書」に署名することにより同意して頂きたいと思います。

この研究目的は?

 X連鎖αサラセミア・精神遅滞症候群(ATR-X)は、最近見つかった疾患で、日本での報告はあまり多くありませんでした。しかし、1995年にこの疾患の原因遺伝子ATRX遺伝子が見つかり、以来、日本でもATR-Xと診断される症例が30例を越えました。この疾患の仕組みを理解するには、多くの日本人の症例を検討することが非常に重要です。この研究の目的は、日本人のATR-X患者さんの遺伝子解析を行い、結果を検討、解析することにより、日本人に相応しい遺伝子診断法を確立することです。このことにより、多くの患者さん、御家族に対して、より正確な遺伝カウンセリングを行うことが可能となることが期待されます。

 ATR-Xという病気は、発達の遅れを伴う病気ですが、その原因は分かっていません。このことが解明されれば、脳に障害が起きるATR-X以外の病気にたいしても、治療法の開発につながる可能性があります。
この臨床的遺伝子診断のために使われる検体は、医学の発展に伴って将来行われるであろう研究にも貴重なものとなる可能性があります。今回の検体が将来の医学研究にも使うことが出来るよう、私たちの趣旨を十分ご理解の上、あわせて、同意をお願いいたします。

診断方法

 血液を用いますが、採血の方法は通常行われている検査の時と変わりありません。この採血にともなう危険性は、痛みを伴うこと以外はほとんどありません.

  血液に含まれるDNAやRNAという物質を取り出し,ATRX遺伝子の構造を解析します.調べる遺伝子の種類を追加する可能性もあります.これらが他の人とどのように違うか,症状との関係はどうかなどについて調べます.

 具体的には、原因遺伝子ATRX遺伝子の塩基配列を調べて、検討します。また、ATRX遺伝子の異常により引き起こされることが明らかにされている、ゲノムDNAの変化(DNAのメチル化)を調べます。

研究計画などを見たいとき

 御希望があれば,個人情報の保護や研究の独創性の確保に支障を来たさない範囲内で,この研究計画の内容を見ることができます.

研究に御協力して頂けるかどうかを考えるために

  1. この研究に御協力して頂けるかどうかは、こちらが強制するものではなく、ご自分の意志で決めていただきます。たとえ、協力されなくても,医療の質が低下するといったご心配は全くありません。
    一旦同意された場合でも,気がお変わりになったら、いつでも文書により同意を撤回することができます.その場合は採取した血液や遺伝子解析の結果は廃棄され,診療記録もそれ以降は本研究のために用いられることはありません.遺伝子解析に関する意思の確認書の原本は,実施機関において保管します.あなたには,その写し一部をお渡しします.
  2. 遺伝子解析を受けた場合に考えられる利益および不利益
    患者さんの病気の診断が臨床的にはっきりついている場合は,研究で遺伝子構造の違いが見つかる,見つからないということが,患者さん自身の診断,治療を左右するわけではありません.ただし,病気の原因となる遺伝子構造が見つかった場合には,患者さんのご家族についても調べられるようになり,その人達や子孫の健康管理に貢献できる可能性があります.
    患者さんの病気の診断がまだはっきりついていない場合は,病気を起こす遺伝子構造がみつかれば,診断がより確実になります.さらに,今後でてくる可能性のある症状を事前に知って,早期発見や予防的措置を行うことができる場合もあります.
    患者さんの血縁者の場合,その家系で病気の原因となっている遺伝子構造がわかっていれば,病気の原因となる遺伝子の異常を受け継いでいるかどうかを,ほぼ確実に診断できます.女性の場合、受け継いでいないとわかれば,自分の子どもへ遺伝しないこともわかります.
    遺伝子診断を受けたことにより、不安を感じたり,悩むことがあるかもしれませんが、当施設では,遺伝カウンセリング部門を整備していますので十分対応できるよう配慮いたします。
  3. 遺伝子診断を受けなかった時に予想される不利益と利益
    遺伝子診断の結果によりわかったかもしれない新しい情報を得ることができません.その病気になりやすい遺伝子の構造を持っているかどうかはっきりしないため,不安が残ります.また,家族のための遺伝子診断の開発が遅れるかもしれません.遺伝子診断を受けなければ,それによって起きたかもしれない新たな問題を避けることができます.
  4. 個人情報は他人には漏らしません
    患者さん個人の情報を保護することは,刑法で定められた医師の義務です.遺伝情報はそのなかでも最も厳重に管理されます.
    遺伝子解析の結果は,他人に漏れないように,取扱いを慎重に行っています.解析を開始する前に,あなたの試料や診療情報からは住所,氏名などが削られ,代わりに新しく符号がつけられます(匿名化).あなたとこの符号とを結びつける対応表は,試料を採取した病院で個人情報管理担当医師が厳重に保管します(連結可能匿名化).こうすることによって,あなたの遺伝子の解析を行う者には,誰の試料を解析しているのか分かりません.
  5. 遺伝子解析の結果のお伝えの仕方
    遺伝子解析の結果についての説明は,御本人またはご両親にお伝えすることを原則としています. 同じ遺伝子を受け継いでいるかもしれない血縁者への連絡については,解析を受けた本人が行うことを原則としますが,了解のもとに担当医が行うことも可能です.
    なお,本人が結果を知らないでいたいと最初からあるいは途中から表明していた場合は,遺伝子解析の結果はお伝えしません.
    遺伝子解析の結果について説明を希望される場合は,申し出てください.

    (同意する人が遺伝子解析を受ける本人ではない場合)
    未成年者が遺伝子診断を受ける場合には,基本的に,親権者の求めに応じて,親権者だけに結果を説明します.この場合,未成年者の意向を確認し,それを尊重します. また,未成年者本人が明確に説明を希望している場合には,基本的に,その未成年者に説明をします.この場合,親権者の意向を確認し,これを尊重します.
  6. 解析結果の公表
    ご協力によって得られた研究の成果は,個人が誰であるかわからないようにした上で,学会や学術雑誌などで発表されることがあります.
  7. 知的財産権が生じたとき 
    遺伝子解析の結果として特許権などが生じる可能性がありますが,その権利は国,研究機関,民間企業を含む共同研究機関および研究実施者などに属し,試料の提供者には属しません.またその特許権により経済的利益が生じる可能性がありますが,試料の提供者はこれについても権利がありません.
  8. 遺伝子解析が終わった試料がどう扱われるか
    血液などの試料は,匿名化されたまま厳重に保存され,原則として本研究のために使用されます.もし同意していただければ,将来の研究のための貴重な資源として,研究終了後も保管させていただきます.
  9. バンク事業への協力について
    血液やDNAなどの試料を集め,誰にもどこの誰のものかわからないようにした(連結不可能匿名化)上で広く研究用に提供する事業(バンク事業)が行われています.将来,別の遺伝子解析研究のために使わせていただけるよう,試料をバンク事業に提供し,国民の共有財産として様々な研究に利用させていただくことも併せてお願いします.
  10. 遺伝子解析の費用について 
    遺伝子解析は研究費によって行われますので,その費用をご家族が払う必要はありません.しかし,遺伝子解析の結果により病気の診断がつき新たな検査や治療が必要となったときや遺伝カウンセリングには,一般診療と同様の個人負担となります. また,この研究への協力に対しての報酬は支払われません.本研究の費用は信州大学医学部社会予防医学講座の研究費によっています.
  11. 遺伝の悩み及び遺伝子解析前後の不安に対する遺伝カウンセリング
    病気のことや遺伝子解析に関して,不安に思ったり,相談したいことがある場合は,遺伝カウンセリング担当者(*)が相談を受けます.診療を担当する医師,インフォームド・コンセント担当者等にその旨お伝えください.その場合,病気の予防・診断・治療に最善を期すだけでなく,患者さん・家族の方の気持ち,考え方,ライフスタイル,社会的背景を尊重し,納得のいくまであらゆることに関する相談・カウンセリングを行います.それによって,精神的にも最善の結果が得られるようフォローアップいたします.
    (*) 神奈川県立こども医療センター 神経内科あるいは遺伝科

研究責任者
和田敬仁
神奈川県立こども医療センター 神経内科
〒232-8555 横浜市南区六ツ川2-138-4
電話; 045-711-2351 FAX; 045-721-3324

E-mail: twada@kcmc.jp